コールセンターを立ち上げる際に、機器とフロアなどのオペレーターを入れる箱からイメージしても良いですが、「実は、 まだまだ必要なものがありまして……」と思うことがあります。どういうサービスを提供するのかなど、その後の運営のことを考えることがとても重要なのですが、そこまで考えている企業が少ないのが事実です。ここで、少し私の体験談をお話させてください。

以前ある企業さまからメールを頂きました。

そのメールの趣旨は、「ユーザーから電話を受けるコールセンターでオペレーターが応対する前に、問い合わせ内容を振り分けるコールフローを考えている。このコールフローを実現するための見積もりを週明けまでに欲しい」という事でした。

あなたなら、どのような見積もりを作成しますか。

この依頼はコールフローをプログラム化するだけではなく、いわゆる音声応答システム(IVR)の構築と導入の見積もり依頼です。

音声応答システムをお客さまとオペレーターの間に差し込むためには、以下の要件 が必要となります。

  1.  既存コールセンターの運用とシステムの情報
  2.  システムメンテナンスや統計データ取り出しなどの管理者機能
  3.  稼働時間と停止時間などの受付時間
  4.  分配先の受付グループ
  5.  お客さまに聞いていただく音源の用意
  • 音源は、案内とメロディを用意するのが一般的です
  • 案内は、声優さんの指名とスタジオでの録音が必要になります
  • メロディは著作権侵害にならないオリジナル音源です。
  1.  システム機器の選定
  2.  コールフロー設計
  3.  機器にコールフローを実装し単体テスト
  4.  稼働しているコールセンターへの組み込み設計と実施
  5. 作業後の運用監視です。

当時、私はコールセンターシステムの構築チームのプロジェクトリーダーを担当していました。私は①の運用状況から仮説を立てて概算価格を見積もり、営業担当者に提出しました。

その時の営業担当者は、コールフローをプログラミ ングする作業だけの概算見積もりを要求されていると考えていたので、提示した概算価格にびっくりしていました。

「高すぎる、お前は会社の信用を無くす気か」と怒られました。 私は、「先方から要求されているのはコールフロー設計のみですが、それだけでは運用に使えません。コールフローの実現を頼まれれば、我々プロは本来の目的に沿ってコールフローを実装する事が使命です。」 とお答えしました。

自分の回答を聞いた営業担当者は、理解してくれてお客様に概算見積もりを提出したそうです。

お客様は依頼したコールフローのプログラミング以外も見積に記載してあったことに驚いていましたが、最終的にはコールフローの設計だけではユーザーにサービスを提供できないことを理解していただきました。

このようにコールセンターを立ち上げる際にはその後の運用まで考える必要があるのです。

その時、「こっちが素人だから吹っ掛けてきている」と感じるか、「自分のひらめきの不足分を補い動くように形にしてくれそうだ」と感じるかで、結果は大きく変わります。 当然、提出された概算見積もりを鵜呑みにするのではなく、要るものと要らないものを検討する必要があります。概算見積もりを受け取ったら、どんな仮説を基に概算見積もりを作成したのか、しっかりと根拠を聞き出して吟味してください。

今回のコラムは、ご紹介した事例のようにコールセンターの立ち上げやその後の運営のために知っておくべきことについて解説していきます。

コールセンターの立ち上げを計画している。絶対に失敗できない

コールセンターの開設には、どのような準備が必要でしょうか。必要に駆られてコールセンターの開設を考えている会社の経営者の方、すでに一定の経験を積み、自身で新たにコールセンターの立ち上げを考えている現コールセンター長の方など、様々な立場から開設に向けての準備に取り掛かるかと思います。

ここでは、共通して辿るべきプロセスを紹介すると共に、コールセンター開設前のマインドセットとして、「そもそもの目的」「運営方針」などを共に確認していきます。

 

コールセンターの立ち上げに必要なものとは?

ここでは、コールセンターの立ち上げに際して、具体的に必要なものについてご紹介します。

ハード(建築、設備、機材など)

  • フロア
  • オペレーターの机、椅子
  • PC
  • ヘッドセット
  • 強めの空調(PC冷却のため)
  • 入退室のセキュリティ、IDカード
  • 電話
  • 会議室

ソフト(システム、マニュアルなど)

  • 顧客管理システム(CRMシステム)
  • 基幹システム
  • 通話録音システム
  • メールシステム(コミュニケーションツール)
  • 地図システム
  • センター長業務マニュアル
  • QA(クオリティ・アシュアランス)業務マニュアル
  • SV(スーパーバイザー)業務マニュアル
  • オペレーター業務マニュアル

コールセンターの立ち上げ、開設する際のプロセスとは

コールセンター立ち上げ時、開設時に注意しておくべきポイントとは?

ここまで、コールセンターの立ち上げに際して必要な「もの」について、具体的にお話してきましたが、ハード(設備、機材など)や人を完璧に揃えたところで、そのコールセンターが成功するとは限りません。

ここから先は、この記事を読んでいる最大の目的に入っていきます。

肝心なのは、「何のためのコールセンターか」というそもそもの目的を明確にしてから、順を追って設計していくことです。大切なのはコールセンターとしての体裁を整えることではなく、コールセンターの開設よって解決したいことを考えて、そこから逆算して環境を整えていくことではないでしょうか。

1.コールセンターの開設の目的を明確にする

現在の業務を効率化し、ビジネスを加速するためにコールセンターの開設を考えている経営者の方は多くいることでしょう。しかし、開設に向けて動き出す前に、会社自体の業務を見渡すことが大切です。

というのも、会社によってはそもそもコールセンターが必要ではないサービスもあるからです。コールセンターの開設の前に、「本当にコールセンターが必要なのか?」を考えることが重要なのではないでしょうか。業務を集約し、効率化を図るのがコールセンターの役割でもありますが、人員確保や設備投資などに加え、開設後に起こる様々な取り組みなどを考えると、開設せずに済むのであればそれに越したことはありません。

そして、本当に必要という結論に至ったら、開設の目的を明確にします。

まずは、会社の業務を見渡してみましょう。例えば業種が製造業や運送業の場合は、製品の不具合や配達の遅れなどがあったときにお客様から電話がかかってきます。電話を受ける社員は、多くの場合クレーム対応まではできますが、業務改善への提言はできず抜本的な解決には至りません。

そこで、お客様の声(ニーズ)を都度汲みとり、業務改善に繋げることができるような役割として、コールセンターの開設が必要ということになります。これは一例ですが、コールセンターの開設によって、会社側とお客様側の双方の問題が解決されることが理想的な状況ではないでしょうか。

他にも、顧客情報の一元化や顧客対応の品質管理など、コールセンター開設の目的は様々あるかと思います。自社の業務を見渡して、開設によって実現したい状況を明確にする方法は以下の通りです。

  • ネットや知人などから何か気になる情報を収集する
  • 収集した情報を、後述の『サービス実現モデル』のピラミッドの中にちりばめてみる
  • ピラミッドを俯瞰して、お客さまユーザーに提供しようとしているサービスに必要な情報と、無関係な情報とを識別できるように整理する
  • 今お付き合いが有る事業者などに、相見積もりを頼んでみて、受け取った相見積もりが
  1. 頼んだ範囲だけ見積もりって来る事業者なのか、
  2. コールセンターを立ち上げたのちの運営を見据えた概算見積もりを持ってくる事業者なのか

を、見分ける。

QCD(品質、費用、納期)で比較した特徴

もし②の事業者が見当たらなければ、信頼できそうなところを新たに開拓しましょう。

2.お客様に何を提供したいのか?

お客様のニーズを汲み取った上で、何を提供すればよいのか。どのようなサービスが可能で、どのような仕掛け(ビジネスモデル)が必要なのか。そして、それらを連携するための仕組み(システム)として、どのような選択肢があるのか。このように、順を追ってひとつずつ具体的に決定していきます。
コールセンターがお客様に対して何を提供したいのか。それはつまり、これから始めようとするコールセンターのサービスを弊社が開発した『サービス実現モデル』を使って洗い出す作業を行います。

3.コールセンター長の役割を明確にする

コールセンターの立ち上げに際して、システムや人が入る箱を固めることばかりに注力していませんか。開設の目的やサービスを決定することは、コールセンター長の役割を明確にしておくことと同じです。

まず、経営側がコールセンター長に対して、役割をしっかりと説明しておく必要があります。コールセンターはクレームの掃きだめであり、「とりあえず、クレームの対応だけしておけばいい」というスタンスの経営陣もいることは確かです。しかし、コールセンターはお客さまから直接の声が聴ける貴重な場所であり、業務改善のヒントが詰まった価値ある場所であると認識させることで、コールセンター長は自身の役割について誇りを持つことができます。

コールセンター長の仕事はクレームやトラブルをゼロにすることや、クレームに対応するだけではありません。コールセンター、オペレーターは現場で起きている課題を他部門に伝えることこそが、重要な役割なのです。

しかし、立ち上げに際して、このことを認識している企業やコールセンター長は少ないのが現状です。クレームの要因である他部門の業務が改善されると、オペレーターは毎日同じクレームの対応から解放されます。更にクレームで疲弊することもなくなり、結果として退職者が減ります。このように業務改善によってクレームは減り、さらにクレームが減ることによって退職者も減り、不要な採用で浪費してしまう経費の垂れ流しも減らせるという構図になっているのです。

そこで、クレームを減らすためにはどのような取り組みが必要になるのでしょうか。どんなクレームがあるのかを把握し、さらにそれを他部門へ共有することが必要になってきます。そうするとコールセンターとしての役割が果たせるだけではなく、業務改善にも役立ちます。受けなくてもいい電話(クレーム)が減ると呼量削減にもなり、お客様も電話で待たされる時間が短くなるので応答率の改善も進み満足度も上がります。コールセンターとしては、クレームやトラブルを1割減にするなど、具体的なKPI目標を設定するとよいでしょう。

4.求人・採用についての方針、人材育成の方針を決める

コールセンターという“現場”を担うのは、他でもないオペレーターになります。よって、コールセンター立ち上げでは、オペレーターを確保しなくてはなりません。

ほとんどのオペレーターの求人は、「未経験者歓迎。クレーム対応は必須の仕事」といった内容です。しかし、これを読んで、オペレーターの仕事は魅力的と思う人は果たしているでしょうか。それよりも、「業務改善に繋げるための重要な橋渡し役。チームワークが必要なやりがいのある仕事」とした方が、モチベーションの高い人材が集まると思います。

このように、オペレーターはクレーム対応だけではなく、クレームがあった時にその内容を上長やQA(クオリティ・アシュアランス)に伝え、改善を促してくれる存在であるというスタンスで募集すると効果的です。もちろん、前提としてオペレーターが改善を促すというアクションをするには業務上の権限移譲や余裕が必要であり、その時間を確保するのはコールセンター長の仕事になります。

オペレーターの状況をマズローの欲求5段階説に沿って説明すると、オペレーターがクレームを受ける環境というのは安全が確保されていない状況ということになります。

マズローの欲求5段階説はピラミッド型で表すことができ、低次なものから順に「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求(所属と愛の欲求)」「承認欲求」「自己実現の欲求」となっています。つまり、2段階目である「安全の欲求」が確保されていないことには、その先の高次な欲求(業務遂行や改善活動)に辿りつけません。

そこで、オペレーターの安全を確保するために、チームとしてどのような動きが可能か、さらに、どのような方法で他部門にクレーム内容や業務改善を促すかなどをコールセンター長が考える必要があるのです。

5.運営方針を決める:業務改善をどう伝えるのか?

ここにきて、ようやく運営方針に着手します。オペレーターがクレームやトラブルを受けた場合、まずは謝ることになりますが、謝り方にもコツやポイントがあるので、失敗しない謝り方をQA(クオリティ・アシュアランス)と一緒にスクリプトに落とし込みます。

どんな応対でも、転んでもただでは起きないという発想で、クレームを貴重な情報源として捉えて、可能な限りお客様の本音をお話ししていただきましょう。

オペレーターはQA(クオリティ・アシュアランス)が作成した聞き方、伝え方、考え方の3つを盛り込んだスクリプトを基に応対を進め、クレームやトラブルを悪化させずに問題が起きた背景やお客さまの拘りを引き出して、以降の改善に役立てる事を宣言していきましょう。

コールセンター業務で必要なマニュアルの落とし穴

コールセンターで実際に業務を行うのはオペレーターとスタッフになります。コールセンターのサービスの質を保つためには、業務フローマニュアルは必要です。

業務用マニュアルの落とし穴

まずは、コールセンターの目的とコールセンター長の役割を現場に浸透させることが必要です。コールセンター全体で、「クレーム・トラブルをゼロにする」という目標をマニュアルで共有することは必要でしょう。

次に、業務そのものについてマニュアルで説明します。コールセンターの一般的なマニュアルはシステムの使い方についてばかり記載されています。

オペレーターの受け答えなどについてはマニュアルでは記載されていません。最低限のマナーなどについては、新人教育の時に教えてもらうので、それをマニュアルとしてとらえている人も多くいます。

本当に必要なマニュアルとは?

では、本当に必要なマニュアルとはどのようなものでしょう。それは例えば、クレーム受けたときに、その内容や状況の聞き方、伝え方、考え方についてのガイダンスがあり、さらにそのことを他部門に共有できる立ち振る舞いの仕方が書いてあるようなものではないでしょうか。

コールセンターの立ち上げの際はご相談を!

リアルな応対に使うスクリプトは一見複雑で、マニュアル化することが不可能に思えますが、それを可能にしているのが、弊社が開発したAI人工知能コーチングエンジンシⓇステムなのです。コーチングエンジンⓇシステムでは、オペレーターの行動指針がマニュアルとして盛り込めるだけではなく、聞き方、伝え方、考え方を盛り込んだスクリプトを通話しながら使用することができるので、新人でも容易に使うことが可能です。スクリプトの作り方は、管理者画面から対象となるスクリプトを選択し、画面で構成を確認しながら分岐とセリフを追加します。

応対支援画面は、次に応答すべき項目が画面上に出てくるなど、リアルタイムにオペレーターが次に何をすべきかをナビゲーションしてくれます。また、コーチングエンジンⓇシステムはスクリプトのブラッシュアップが可能になっています。使いながらより良いスクリプトに改善できることも特徴となっていて、実際にいつまでもスクリプトを使い続けられます。

他にも、お客様とオペレーターの対応履歴が一元管理されているため他部門からリアルタイムや過去にさかのぼって見ることができます。

コールセンターから発信される今までのクレーム報告は、「好き」とか「嫌い」とかの連絡が多く、業務部門ではその連絡では改善に使えませんでした。

クレームを基に改善を進めるためには、どんな条件で何をしようとしたときに、期待通りだったのか否かまで遡れないと改善に取り組むことが出来ない事が有名です。

そのためコーチングエンジンⓇシステムでは、お客さまとオペレーターの会話を文脈として履歴データに保存します。

そのため探している場面の特定がしやすい設計にしています。その結果をコールセンターの中だけではなく会社全体で共有することができ、会社全体の業務改善に役立てる事が出来ます。

コーチングエンジンⓇシステムについて詳しくはこちらをご確認ください。

 

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